エッセイ・小説

【創作小説】風見鶏【vol.20】

逃げよう

なかなか会えないタクミ、それでも私に対して「一緒に逃げよう」と提案してくる。

タクミは私のことを愛しているのだろうか、彼の気持ちが全く見えない。それも、ここ数カ月くらいは彼の気持ちが見えないのではなく、彼が別人になったようにさえ、見えた。

それでも、彼の提案は非常に魅力的だ。そろそろ、夫との関係も清算しようかと思い始めていたため、彼の提案に乗るつもりだ。

次の週末、離婚届けを置いて家を出たいとタクミに言う。いつものメッセージを介してだ。

彼もその気持ちを固めたようで、「そうしてくれ」と快諾。

そうして、私たちは二人で逃げて、再婚をしようと決めたのだ。

夫のいない隙に

私は、夫のいなくなった隙にさっと自分の荷物を準備して、離婚届に自分のサインを書いた。

タクミと逃げようにも、まずはその支度を整えなければいけない。そんな気持ちで動いたのだ。

でも、タクミは本当に私と逃げてくれるのだろうか?彼の言葉がいまだに信じられない。これは「幸せで信じられない」というわけではなく、彼が別人みたいになったから、信じにくくなったということだ。

一体どういうことだろう、タクミは夫の元から私を連れ出してくれるのか。

いろいろ不安だけど、夫のいない間に逃げる準備をしておかなければ。

それにしても、タクミの誘いがあった後、都合よく夫は私の思い通りに家から出て行ったな。

なぜ急に夫がいなくなったのか、全く分からないけれど、私に天も味方していることかな?

携帯が鳴らない

タクミの気持ちを確かめたかったから、タクミの携帯に電話をかけてみた。

しかし、何度もかけても彼が出てくれなかった。

メールをして、彼の声を聴きたいと言ったのだけど、やはりなかなか電話をかけてくれる気配はない。

私は彼と連絡を取るために、彼の携帯を借りていたけど、本当に彼から連絡が欲しいときに役に立ってくれないや。

私はタクミからの連絡をもらえないと安心して離婚と家での準備をできなくなっていた。最初は彼から乞われなくても自分の為と思って、離婚しようと思っていたのに、今はもう、彼がいるから離婚しようと思いがちになっていた。

そこに、彼からの連絡が来なくなってしまったら、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。

彼の元へ

もうタクミのメールを待つことをせずに、夫に別れを告げる置手紙と離婚届を置いて、家を出た。

メールなどもういい、きっとタクミは待ってくれるだろう。

自分の荷物をまとめ、家を後にして、タクミがいっていた待ち合わせ場所まで歩いた。

彼の元に行ったら、連絡を取れなくてどんなにさみしかったか、訴えて、抱きしめてもらおう。

そう、もう彼からのメールや電話を待たないで、自分から行こう。

待ち合わせの駅に着いたが、今は待ち合わせの時間の前だったから、彼はまだいない。

「ふう」ため息をついて、立ち尽くした私。

そんな私に声を掛けてきたのは、私が待っていた彼ではなかった。

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