エッセイ・小説

【創作小説】風見鶏【vol.2】

花を愛する人

思えば、これまで私はSNSにハマったことは一度もなかった。

リアルが忙しすぎて、SNSにまで手を広げる必要がなかったのだ。

学生時代には友人同士でつながるSNSは利用していたが、不特定多数の人となど、関わり合いになろうとは思わなかった。

私はそんなことをしなくても、常に周りに友人が集まってくるタイプ。

いつも男女問わず、いろいろな友人たちが私を囲んでいた。

学校で人気者にありがちなケースだったが、私は誰のものにもならずに、みんなの憧れ、高嶺の花を気取って過ごしていた。

大丈夫、SNSだって同じようなもの。

たくさんの友人を作り、程よい距離感で楽しもう。

そして、私の育てた美しい花を愛でてもらおう。

それで、きっと私は満たされる、学生の頃のように……。

誰かに見て欲しいだけ

SNSへの登録は簡単なものだった。

匿名性の高いタイプのSNSで、アイコンや誕生日の登録なども自由で、いくらでも嘘をつくことができる。

写真は……顔写真を載せるのはやはり抵抗がある。かと言って植物の写真などではあまり注目もされないかもしれない。

私は、自分の横顔の写った写真をほんの少しぼかし、載せることにした。

髪が目をほんの少し隠し、鼻とあごのラインだけがきれいに写っている。

私は自分の目が嫌いだった。

二重ではあるが、ややつり目でかわいげがない。

学生時代、親友だったミサキにも散々「ねえ、怒ってる?今、かお怖くなってる」とからかわれた。

ミサキ、懐かしいな。

結局、私の男友達の一人と結婚して、忙しさの中で疎遠になった友達。

あんなに親しくいた友達は、彼女以外いなかったけど、女の友情なんてそんなもの。

リアルで何をしていても、本当の顔も知らなくても、今はとりあえず誰かが私を見てくれればいい。

顔も知らない人

SNSでは顔も知らない人、不特定多数の人に自分の書いた言葉、アップロードした画像や動画が見られることになる。

そこに怖さもあるけど、未知数のワクワクもある。

顔も知らない、どこにいるのか、リアルな人なのかも分からない人の方が気楽でいい。

気軽に私の庭や日常の出来事を見てもらおう。

知らない人、しがらみのない人だからこそ、幸せそうな面だけ見せることができる。

自分が幸せであるとアピールして、ホントに幸せだったような気分になれるかもしれない。

その日から私は、顔も知らない人たちへ美しい庭を見せるために、日々の手入れにより力を入れるようになった。

誰も見てくれない庭?

そんなことはない。夫が見てくれなくても、誰かが見てくれる。

それでいいのだ。

風見鶏

SNSで自分の育てた植物の写真をアップロードしていくうちに、もっともっと新鮮な情報を提供したくなった。

新しい種類の植物を植えるだけでは物足りない。

そこで私は、久しぶりに夫にねだって、庭に風見鶏を設置してもらうことにした。

彼は渋るどころか、全く頓着しない感じで「好きにしたらいい」とだけ口にした。

私のすることに異論を唱えることすら面倒なのか。

お金だけ出して好きにさせていれば私が従順に、妻として大人しく日々を過ごしていると思っているのか。

それであなたはいいのだろうか?

私の葛藤はそのままに、うちに風見鶏がやってきた。

庭の花壇に杭で固定されたそれは、風が吹くたびクルクル回り、私の目を楽しませた。

動画に収めたり写真を撮ったり、可愛い鳥の姿は私のSNSのタイムラインに花を添えるにも役立った。

そんなふうにして、私のSNSはそれなりに閲覧者が増え、凪のような日常のほんの少しの楽しみとなった。

新しい出会いにほのかに胸を高鳴らせて、そっと日々の出来事を投じる。

どんな波紋が広がるか、興味本位で小石を投げる子どものように。

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